概要
さっそく本題の複素数、と言いたいところなのですが、まずは私たちが知っている数をいくつかのグループに分けることを考えてみましょう。
自然数
自然数とは、一言でいえば「1、2、3…」と物の数を数えるときに用いるものです。
が、数学的に物事を考える際には定義をしっかりと考えることが必要です。
そこでこの「1、2、3…」というものは定義として適切なものでしょうか。
結論からいうと、これを定義と言うには無理があります。
「…」の部分に曖昧さが残るからです。
定義というものは、少しでも曖昧さを含んでしまうとその後の議論の正しさに影響を及ぼしてしまうのです。
ペアノの公理
そのため、その曖昧さを回避した自然数の厳密な定義として、『ペアノの公理』というものがあります。
いくつか補足すると、2. の $\phi$ という写像(関数)は、「次の数」を表します。
(写像についてはいずれ扱います)
そのため、4. は「 $\mathbf{N}$ のある元 $a$ の次の数が $1$ になるような元 $a$ は存在しない」ということを意味するので、これは次のように言い換えることができます。
言われてみれば納得していただけると思います。
そして、最後の 5. ですが、これは数学的帰納法の原理に相当します。
数学的帰納法については、いずれ詳しく扱う予定です。
また、このように自然数を構成しましたが、以下のことに注意してください。
ペアノの公理から、足し算や掛け算は直ちに定義されない。
もう一度ペアノの公理を見てほしいのですが、ペアノの公理には足し算を意味する $+$ や掛け算を意味する $×$ が現れていません。
そのため、これらの演算は別に用意する必要があります。
ペアノの公理は絶対に覚えなくてはならないというものではありませんが、
数の基本ともいえる自然数の定義、ということで紹介しておきました。
せっかくだし覚えてみよう、という方は、この点についても一緒に確認しておく必要があります。
0の扱い
ところで、 $0$ の扱いですが、当ブログ内においては自然数に含めないものとして扱います。
$0$ を自然数に含めるかどうかは、取り扱っている分野や流儀にもよります。
新しく数学の本を読む際などには、念のため凡例を確認しておくと良いでしょう。
自然数を表す記号 $\mathbb{N}$
自然数は英語で $\mathit{Natural \ number}$ といいます。
そのため、 自然数全体を意味する記号を $\mathit{Natural}$ の頭文字を用いて $\mathbb{N}$ と表します。
もし自然数に $0$ を含める場合は $\mathbb{N}_0$ のように $\mathbb{N}$ の右下に小さく $0$ と書いたりもします。
この $\mathbb{N}$ のような文字を黒板太字などと呼びます。
数学書などにしれっと出てくるので、覚えておいて損はないでしょう。
整数
次に整数というものを考えてみましょう。
整数とは、自然数に $0$ と負の数 ${-1,-2,-3,\ldots}$ を加えた集合のことです。
とはいえ、自然数同様、これでは定義としてはいまいちなので、これについてもしっかりと考えてみましょう。
定義
整数を定義するには、いくつか手法があります。
その中でも、以下の二つの方法で定められることを知っておくといいかもしれません。
- 自然数と $0$ の和集合 $\mathbb{N}_0 ( =\mathbb{N} \cup \{0\})$ に加法を定義し、その加法に関しての逆元を定める方法。
- 自然数の直積集合 $\mathbb{N} × \mathbb{N}$ に同値関係を入れた商集合によって定める方法。
1.に関しては群の知識が、2.に関しては集合論の知識が必要になるのでここではこれ以上触れませんが、整数というものがなんとなくで定まっているわけではなく、しっかりとした構成方法があるということです。
整数を表す記号 $\mathbb{Z}$
整数は英語で $\mathit{Integer}$ といいます。
ところが、整数を表す記号はドイツ語で数を意味する $\mathit{Zahlen}$ の頭文字を用いて $\mathbb{Z}$ と表します。
せっかくなのでどちらの言葉も覚えておくといいでしょう。
有理数
次は有理数です。有理数とは、一言でいえば分数の形で表される数のことです。
定義
そうはいっても、「じゃあそもそも分数とは」という問題がここで生じてしまいます。
それを解決するために有理数を定義したいのですが、残念ながらここでも商集合の考えが必須になります。
また、それ以上に環や体についても触れる必要があるため、これもここでは詳しく触れません。
普段何気なく使っている分数ですが、実はかなり高等的なものであると思うとちょっと楽しくなるかもしれませんね。
有理数を表す記号 $\mathbb{Q}$
有理数は英語で $\mathit{Rational \ number}$ といいます。
ところが、有理数を表す記号は英語でもドイツ語でもなく、イタリア語で商を意味する $\mathit{Quoziente}$ の頭文字を用いて $\mathbb{Q}$ と表します。
『ペアノの公理』を構築した数学者ペアノが導入したのがきっかけのようです。
実数
次は実数です。
定義
実数は、簡単に言えば有理数と無理数を合わせた数の集まりです。
無理数とは、有理数でない数、すなわち、分数の形で表すことのできない数ですね。
無理数をいくつか挙げておくと、平方根 $\sqrt{2}$ や円周率 $\pi$ 、ネイピア数 $e$ などです。
ところが、実数を厳密に定義しようとするとこれまた大変なのです。
ここではその方法のうち二つを紹介するにとどめておきます。
- デデキント切断による方法
- 有理数を完備化する方法
このどちらも解説するには非常に長くなってしまうのですが、
いずれはデデキント切断による方法だけでも紹介する予定です。
実数を表す記号 $\mathbb{R}$
実数は英語で $\mathit{Real \ number}$ といいます。
そのため、その頭文字を取って、実数全体の集合を $\mathbb{R}$ と表します。
複素数
前項で実数を定義したので、いよいよ複素数を定義していきますが
その前に虚数単位を定義しておきましょう。
虚数の例をいくつか挙げておきましょう。
$i$ の係数は実数であれば良いので、以下のようなものが虚数の例です。
- $2i$
- $- \frac{2}{3} i$
- $\pi i$
素朴な定義
虚数単位も導入したので、いよいよ複素数(の素朴な)定義です。
ここでも、複素数の例をいくつか挙げておきましょう。
「実数と虚数の和」が複素数なので、以下のようなものが複素数の例です。
- $3 \ – \ 4i$
- $\sqrt{3} \ – \ \frac{\pi}{3} i$
- $e \ – \ \pi i$
「素朴な」とわざわざ書いたことからお察しかもしれませんが、
実は複素数の定義には他にもいくつか方法があります。
しかし、ガイダンスにも記載した通り、まずは高校数学の内容を一通り扱う予定なので、
高校で学ぶような定義をここでは紹介しました。
これはこれでれっきとした定義の一つなので、これは必ず覚えてください。
複素数を表す記号 $\mathbb{C}$
複素数は英語で $\mathit{Complex \ number}$ といいます。
そのため、その頭文字を取って、複素数全体の集合を $\mathbb{C}$ と表します。
まとめ
絶対に覚えてほしいこと
以上5つの数の分類を紹介してきましたが、集合としてみると以下のような包含関係になっています。
この5つの集合の名称と関係性は必ず覚えておいてください。
今後、特に断ることなく用いる予定です。
知っておいてほしいこと
ここまでかなりの分量になってしまいましたが、知っておいてほしいこととしては、
「数の定義」は感覚で定まっているのではなく、ちゃんとした定義が存在しているということです。
その構成方法まで理解する必要はありませんが、頭の片隅に置いておいてください。
調べてみてほしいこと
数の分類は、ここに挙げた5つのものがすべてではありません。
他にも四元数や八元数という分類など、多種多様です。
興味を持ってもらえたら、ぜひ他の数の分類についても調べてみてください。
参考文献
この記事を書くにあたり、次の書籍を参考にしました。
上記各項目に挙げた内容についてかなり詳しく記述されているので、ぜひ一度は読んでみてください。
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